ヤクザと家族 感想
*ネタバレ&個人の雑記
藤井道人監督の「ヤクザと家族」(2021)を見た。まだ2月なのに今年最高の映画を見てしまった。
予告やポスターはあんまり見てなかったので3部構成なのも知らず、前半の第一章の時点でなんだかな〜って思ってた自分へ。最高の映画だよ。
自分のヤクザ映画ベストは「仁義なき戦い」(1973)で、あの時代に作られた映画の熱量はすさまじいし、現代であの熱さを再現するのは無理でしょう。なので、「ヤクザと家族」の第一章、第二章あたりは、思ってたのと違うしぬるいなぁと感じたのが本音。(役者さんの演技や、細かい作りはずっと良かった!)
ガラッと印象が変わったのは綾野剛が出所してからの第三章。2019年の現代とリンクしてるのがここで効いてくる。
出所あるある?の盛大な出迎えはなくて、兄弟分1人と弱々しい舎弟がひっそりと迎えにくるだけ。事務所に行ってもほとんどの組員たちは足を洗ってしまって、残されたのは歳を取った数人と病気の親分。
この辺りのシーンでなんか見覚えあるなと思ったら、東海テレビのドキュメンタリー「ヤクザと憲法」まんま!!!
あれは実際の大阪のヤクザに密着した番組だったけど、かなり影響受けてるんだろうなと感じたシーンや台詞がたくさん!
おどおどした舎弟が防犯カメラで事務所の外の様子をじっと見つめるシーンから始まり、月の報告会の様子、細かいところはちょっと怪しいけど、現代においてヤクザとしての生きづらさを語る場面とか。
「ヤクザと家族」は、アウトローの格好良い部分だけで物語を作るんじゃなくて、時代の変化とともに社会におけるヤクザの立場も変わってきているし、そこを丁寧に拾ってたのが本当に良かった。現代のヤクザ映画として大成功だなと思った。
推しの磯村勇人くんがなかなか出てこず暴れそうになったけど、かなり良い役かつ良い演技してたのでそれも含めて良かったなぁ。
劇中、磯村くんは半グレ寄りな存在で、ヤクザや警察の今までのルールは通用しないポジション。それもうまく現代を反映してるポイントかなと思ったり。色素の薄い肌に金髪が本当に良く似合ってました…ラストのうるんだ瞳の水分量すごい…
エンドロールで流れる「FAMILIA」、わざわざ歌詞を横に出していて、歌詞と本編がリンクしている!うまい!家に帰ってMV見たらこれまたリンクしている!最高!MVも藤井監督が携わってます。映画館ではぜひエンドロールの最後まで見ましょう。
以下気になったポイント
・エンドロールで前田公輝の名前を見つけて、全然分からなかったのであとで調べたら廃材処理のときに写真をTwitterにあげた青年っぽい?
・第二章で綾野剛が刑務所入る場面で年齢と日付の字幕が出て初めて年齢が分かるんだけど25歳の設定だったんだ…もっと老けてたのかと…
・タイトルの出し方!綾野剛がヤクザ入りする場面で親子の盃を交わす儀式がそもそも熱いし、散々溜めてあそこで出るのが格好良い!東映ヤクザ映画みたいに縦書きなのも良かったですね。
・第二章、綾野剛が刑務所にいた14年間で世界がガラッと変わったの、浦島太郎みたいで可哀想だなと思った。その後、若頭がシャブにも手を出してることを知って殴り合いになるけど、お互いに「ごめん」って言う場面。残した方も残された方も散々だよねと思ってちょっと悲しくなったり。
・第三章の後半、磯村くんが綾野剛と2人で最後の食事をする場面。印象的だったのは、磯村くんが綾野剛に「大丈夫って言う人は本当は大丈夫じゃない」って言った後に、自分が「俺は大丈夫だから」って言うところ。そして2人が抱き合う。もうなんて言うか、セリフと演技のうまさが相まって本当に良いシーンだった。あそこからラストまでの流れは完璧だな。
・からの海でのラストシーン。韓国のヤクザ映画「チング」は、雨のラストシーンで、何回も刺されるチャン・ドンゴンがかなり印象的だけど、今作もそれに並ぶような寂しい最期。
かつての仲間に刺され、それでもしっかりと抱き止めるのは相手の苦しみを分かりきってるから。グッときたな。
・そのあとの磯村くんの顔面に寄ったロングショットも完璧だった。映える。
・何回か繰り返される「時代は変わってる」っていうセリフが印象的。
・ふと気付いたけど誰かが誰かを抱きしめる場面の多さ。愛だな。
この映画を見ようと思ってる人、またはすでに見た人はぜひ、ドキュメンタリー「ヤクザと憲法」も合わせて見てほしいなと思った。
この映画の話がリアルで起こっていて、悩める現代ヤクザについて考えさせられるので本当におすすめ。ヤクザである前に、人間で、生活があるっていう当たり前のことにハッと気づいたりとか。
映画であの時あの人が言ってた台詞はこのことだったんだなとか色々繋がって理解深まるし、傑作映画がさらに大傑作になるので、「ヤクザと憲法」もよろしくお願いします。
映画見るのやっぱり楽しい。